2025/10/25 21:00

こんばんは。
今回は、「牡丹」についてのコラムになります。

スペック

素材 : A7075+SUS304
直径 : 56mm
幅 : 42.16mm
重量 : 66.1g
軸 : m4×10mm

本製品完成までの道のり

初めにこのモデルに着手したのは2022年の事。
とある3Aの選手の要望により、
・パワフルさと操作性が両立している
・軸回りが割れない
ヨーヨーが欲しい、という要望を受け、牡丹の開発はスタートしました。

パワフルさは縦長の形状と、広く太いL字インナーリムから、素直さはインバース形状で確保し、軸回りはアクセル周辺の割れが発生しやすい部分を意識的に厚くし、これらの課題の解決に臨みました。
また、この段階から名前は決定しており、牡丹の花の見た目からフォルムを形成していきました。
サイドフェイスの中心におしべを模した肉の盛り方を、中心からリムにかけては柔らかく膨らむ花びらからインスパイアされています。

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牡丹 1stプロト

完成したプロトタイプは要望をクリアしていたものの、形状による相殺を期待し、パワーを限界まで引き出すために設定した68gという重量は技のバリエーションが増えた現代において無理がある、という結論にたどり着きました。

その後2022年11月ごろに2ndプロト、通称「CP-03」を生産、販売しました。
実はこの名前は、「Consoleil prototype No.03」の略称でありながら「Consoleil peony(牡丹の英名) f0r 3A」の略称という、ダブルミーニングとなっていました。

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牡丹 2ndプロト (CP-03)

本プロトは重量削減のためにステンレスリムの接合部の形状に加え、コントロールエッジが鋭くなっています。

もともとはシェイプ全体を丸く取ることで、面でのストリングヒットをしていたのが、コントロールエッジの変更に伴い、点でのストリングヒットに変わりました。

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右CP-03、左1stプロト

これによりストリングタッチやコントロールによる傾き、スリープの感じ方やスリープロスの起こる位置が変わりました。
依頼主とこのモデルに関する考察を重ね、形状が変わる、ということによる単なるストリングヒットの影響のみならず、それによる重量配分の変化やステンレスリムの形状の変化がどのように影響するのか、に対する非常に大きな知識や学びを感覚的に得ることができました。

しかし、当時の私ではそれを感覚から理論へ繋げる事ができず、具体的に何を残し、何をどう修正すればいいのかを判別するにも決定的な案が無いまま2年の月日が経ってしまいました。

そんな中、当時友達になりたてで、まだメンバーではなかったホサキヨシユキ選手の家に私用で泊めてもらう機会がありました。彼はCP-03に興味を持ち、テストをお願いしたところ、即日で乗り換えを決意。

長年のヨーヨー歴からヨーヨーの設計がどのように影響するかが理論化できている彼は、私の設計に関する感覚を整理し、トリックの挙動や図面を見ながら夜通し理論化を行いました。
結果、この日のうちにどこをどう修正するのかはほとんど決定。その後CP-03を用いた数回のステージ上での演技を経て図面の微調整を行い、ついに牡丹のプロトタイプは完成。ホサキ選手に使用していただきOKが出、ついに牡丹は完成しました。

では、ここからは協力をお願いしたホサキヨシユキ選手にバトンタッチします。

設計意図(ホサキヨシユキ選手より) 

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私がCP-03と出会ったのは、たまたま私用で東京に来ていたオーナーを我が家に泊めた時でした。当時使用ヨーヨーを迷っていた私は、せっかくならとCP-03のテストプレイを申し出ました。オーナーは快く承諾してくださり、夜通しでトリック中のヨーヨーの挙動を分析し図面の修正を行いました。

2024年当時でもなかなか市場になかった、所謂縦長シルエットのCP-03は、パワフルな回転により長時間のスリープとトリック中の安定感をもたらしました。
元々幅が広いヨーヨー特有の分散された軽やかなフィーリングが苦手だった私としては、慣れ親しんだサイズ感の握り心地と、これまでにない安定感との相性が非常に良く、即日で乗り換えを決意しました。

CP-03に乗り換えてから、ブルーライン系やベルベット系のコンボのスピードが速くなったり、1スロー中に詰め込めるエレメントが増えるなど、強回転の恩恵をかなり多く受けました。
しかしその一方で、強回転が故の弱点も多々実感しました。縦長シルエットによる強回転は、時に慣性が強く働き、回転方向とは逆方向へ切り返す動きや逆アラウンド系の動きの技をする際に大きな抵抗を感じました。
また、大きく出張ったエッジと強回転が相まって、リジェクション時に糸が回転に持って行かれてしまい思うように糸が外れない現象も多発しました。

これらの得手不得手は、概ね強スローをやめることで解決できました。例年の私のスローよりも弱い力でも、CP-03はロングコンボをこなせるぐらいスリープしてくれると確証を得たからです。

その確証を元に挑んだ2024年全国大会。
準決勝は、緊張による自身のコントロールミスは幾つかあったものの、ミスやリカバリーの影響を一切見せず、性能を十二分に発揮し無事2位通過。
決勝は自身の弱さに打ち勝てず、思うような結果を残す事ができませんでした。しかし、あの舞台に立てたからこそ、私自身の課題と、CP-03の課題がそれぞれはっきりしたので、決して無駄な3分間ではなかったと信じています。

実戦を通して見えた課題。それは、「パワーが強すぎること」でした。
強スローをやめたとはいえ、不意なミスによる巻き取り不足や緊張によるパワーコントロールミスが起きると強くスローしてしまう時もあります。そんな時に強い回転を得てしまったCP-03は、ステージ上で思うように動かなくなってしまいました。
そこで、エッジ部分やリム部分の微調整を兼ねて、次のプロトタイプでは全体的なデザインの修正を提案しました。
提案内容は以下の通りです。
・直径のサイズダウン
・エッジ部分縮小化
・リム接合部から伸びるステンレスリムの幅の短縮
・シェイプ部のブラスト加工
・ギャップ幅縮小

操作性と回転力の両立を図るべく行った修正は、直径・リム幅・ブラスト加工の3点がメインとなります。
特に直径とリム幅のサイズダウンは、パワーダウンに大きく寄与し、最低限のパワーを残しつつも形状由来の柔らかい操作性をさらに引き出すことに成功しました。
ブラスト加工については不意な手や指への接触対策として要求したものですが、フィーリングの柔らかさをプラスする事ができ、結果として操作性の向上に繋がりました。
エッジ部分縮小については、先述の通りリジェクション対策が主ではありますが、大きく傾いた時の接地面が増えてしまい減速に拍車をかけていた要因でもあったので、最低限だけ残すよう修正いたしました。結果として、基本姿勢が平行ではないツートラコンボなどのトリックで大きな効果を発揮し、通常のスローで15連打しても難なくキャッチできるまでにスリープロスを抑えられました。
ギャップ幅に関しては、戻りの強いパッド・太くて柔らかい糸でも多重乗せをしても問題なくトリックをこなせつつ、短い糸と弱い回転でもしっかり戻せるギャップに調整することで、あらゆる状況下でもキャッチできるよう調整し対応できるトリックを増やすことに成功しました。

修正の提案は時間をそこまでかけず提案できたものの、今のCP-03でできる最大限の実力がどこまであるのか、CP-03の設計における各トリックや状況下のメリットが分析しきれておりませんでした。そこでGOAT44 in OSAKAという舞台を利用して、自分とCP-03の限界に挑みました。
特にツートラコンボやキンクアンブレラコンボは詰めれるところまでとことん詰め込み、スリープ力とスリープロスの限界点を探りました。

映像とステージ上での体感を元に、改めてフィードバックを送りデザインを固めました。
出来上がった製品版プロトタイプは、色もフィーリングも全て狙い通り、いや想像以上の仕上がりで感動を覚えました。
あまりの出来の良さに1回の修正で試作が完了し、あとは開花を待つのみとなりました。

新年度となり、桜と共に開花した牡丹。
お披露目は今年度の四国での地区大会で行われました。
開花までの準備期間にて見出せた可能性を信じ創り上げたフリースタイルは、予選2スロー構成から始まり、決勝では新技をこれでもかと盛り込んだフリースタイルでした。
予選では後半に多少のミスがあったものの技術点トップ、2位通過となりました。この時点で牡丹の性能は十分に証明できたと思います。
決勝では牡丹と共に新たな“光”を追い求める事をテーマにステージへと立ちましたが、思わぬアクシデントに対処しきれず不出来なものとなってしまいました。これは完全に私の実力不足です。
しかし、ここで得られたものは少なくありません。
次なるステージで満開となる準備は万端です。

座っていた牡丹が立ち上がった先にはどんな姿があるのか、
乞うご期待。

カラー


本モデルを量産するに当たり、牡丹の花の品種からカラーを決めました。

花王

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わかりやすいようピンク、としていますが、正しくは牡丹色です。牡丹と名の付くヨーヨーを作るにあたり、牡丹色を作りたい、というのはずっと考えていたため、これは即座に決定しました。しかし、実は一概に牡丹色といってもかなり種類があります。どれにするか迷いましたが、花言葉に「王者の風格」という言葉があることから、“花王”という品種に近い色を選択しました。

朱玉殿

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ピンクの柔らかい印象とは反対のイメージで、CP-03を連想させるブラストなしのカチッとしたフィーリングにふさわしい色を1色、ポリッシュ仕様で作りたいという思いがあり、花言葉の「壮麗」をイメージできるカラーを、数ある品種の中から“朱玉殿”をモチーフに選びました。

まとめ

約3年の歳月をかけて、ついに満足のいくヨーヨーが完成しました。
その間にトレンドも大きく変わり、「もっと今っぽいスペックに変えた方がいいのでは?」という案もありましたが、それはすぐに否定されました。
このスペックだからこそ実現できるフィーリングと性能があると確信していたからです。

かつて主流だったものや独自の魅力を持つものが、トレンドに押されて見過ごされてしまうことがあります。しかし、我々はその中にも取り去ってはならない要素があると信じ、あえてその価値を追求しました。

このヨーヨーが、プレイヤーに新たな発見や楽しさをもたらす存在であることを願っています。